ストリートピアノ苦情問題

2025年04月11日

ストリートピアノが一般的になりだいぶ経つが、ことあるごとに苦情が寄せられるようだ。音がうるさい、下手な人は弾くな、拙い練習を公共の場でするな、長時間独り占めするな、動画撮影のため占領するな、等々、どれもこれもごもっとも、と思えるが、弾きたい人はいろんな理由で弾きたいのだろう。

例えば、家にピアノがないからストリートピアノが練習場所、演奏会前に度胸をつけたい、注目されたいがためにわざと大音量で派手に弾く、動画投稿に生活がかかっている、弾き始めたら熱中し過ぎて時間を忘れる、どうしても弾かずにはいられない欲求がある、等々。

様々な苦情を受けて、途中から規制を設けて開放するようになった場所もあれば、撤去したところもある。撤去するのなら始めから置かなければ良いのにと思うが、この規制やルールというのは厄介だと思う。

まず「一人何分」と注意書きを置いたところで、日本語を読める人ばかりではないだろうし、そもそもそんなに厳密に時間を測る人は少数派だろうから、制限時間後に強制終了となるくらいの仕掛けが必要となる。

「下手な人や練習中の人はご遠慮ください」の場合、それを判断して忠告する人が常駐するか、AIで点数化し自動音声が流れるような仕組みを作らなくてはならない。家では完璧に弾けたけれども人前では上手く弾けなくなってしまうという人は、容赦なく退場となる。

サイレントピアノの機能を付けたり、いっそ電子ピアノにしてヘッドフォン仕様にすれば、独り占め以外の問題はかなり解決されると思われる。そうなるともう、ストリートピアノの概念とは全然違うものになってしまうが、「無料練習用ピアノ」と名付ければ良い。

このように考えるだけで、非常に面倒くさい。

そもそもストリートピアノを設置しようとした人々が、ピアノという楽器についてあまり詳しくなかったのではないか、と感じる。ピアノ殺人事件を思い起こすまでもなく、楽器の音というのは、例えそれがどんなに美しくとも、聞きたくもない人にとっては非常に耳障りな騒音となり得る。

職業柄楽器を演奏する人は、消音装置を付けたり、防音仕様にしたり、音を出す時間に気を使ったり、音が凶器になり得ることを想定して練習場所を確保する。基礎練なんて、他人が聞いて何も面白いことはないし、延々と部分練習するのを聞いたら、発狂してしまうかもしれない。

音楽は好みが激しい上、音というのは、視覚と異なり逃れられない。聞きたくないものを強制的に聞かされる苦痛は相当なものだ。演奏する人は、それがどんなに上手くても、聞きたくない人の耳には突き刺さるということを覚えておかなくてはならない。また、普段は聞くのが好きな人でも、突然の失業や家族の病気や生活の様々なトラブルなどに直面すると、音楽に神経を逆撫でされるという場合もある。音は、扱いが本当に難しいのだ。

だからピアノを設置する際、音響学の専門家などにも相談して、設置場所を熟考するべきだと思う。公共の場は、交通機関の音、足音や話し声、電子音など混ざり合っている。空間の大きさ、形や材質により、音の反響は全く異なるし、多くの音が上手く調和しやすい空間と、騒音と感じ易い空間があるのは確かだ。それらをよく検討せず、流行に乗って、適当な場所にストリートピアノを設置するから、苦情問題が発生し易くなる。

私は今まで二度しかストリートピアノを弾いた記憶がないのだが、ひとつは有名な都庁の草間彌生ピアノ、もうひとつは確か横浜の馬車道駅の構内にあったピアノだ。この駅ピアノで、まさにストリートピアノの醍醐味を存分に味わった。たまたま居合わせたジャズピアニストと6歳ピアニストと一緒に即興連弾をしたり、帰宅途中のゴスペルグループがやってきて一緒に演奏したり、立ち寄った人々のカラオケ代りにいくつも歌を伴奏した。おそらくほんの数十分でこれだけの人と交流し、知り合うというのは、なかなかない。たまたま運が良かったのかもしれないが。

このピアノは駅のホームのような場所にあるので、無目的に長時間滞在する人がいない。だから、うるさいと思う人がいても通り過ぎれば終わりで、設置場所としてはなかなか良いのではないかと思う。

個人的には、ストリートピアノは素晴らしい交流の場になると思う。でもそれは、交流したい人が集まっている場合の話だ。公共の場では様々な事情で人が行き交う。だから、ストリートピアノからコミュニケーションが生まれる場合もあれば、苦情の種になることもある。

少なくとも、その場所の人の交通量、動線、平均滞在時間や訪れる人々の層を調査し、音響的な分析あるいは実際ピアノを置いての実験が必要だと思う。どこもかしこもストリートピアノが受け入れられる環境である訳ではない。あまり考えずに設置すると、早々に撤去する羽目になるのではないか。ピアノを置けば弾きたい人はいるだろうし、誰かが弾けばうるさいと思う人はいるだろう。だから何よりも設置場所が重要だ。

個人的に絶対置かない方が良いと思う場所は、滞在時間が長い場所、他のBGMなどで音楽過剰な場所、静寂を提供する場所、重要なアナウンスを聞き取るのに音が妨げとなる場所、狭い場所、反響が良過ぎる場所などだ。ピアノにとっては酷だけれども、屋外はベストだと思う。

音楽サロン Musicafé
札幌市清田区 ピアノ教室
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