楽器は休憩中に上手くなるという話
楽器の習得は、基本的には練習量に比例する。よほど不適切な練習法でない限り、練習する程に上達していくもので、ピアノも例外ではない。
ただ、練習しているにもかかわらず、スムーズ弾けるようにならない箇所がある、という状況に遭遇することがある。もし、几帳面に丁寧に取り出して、最大限の集中力を払って練習を繰り返しているのになかなか思い通り弾けない、という場合、少し辛抱強く待ってみると良いかと思う。2、3日同じように繰り返しても弾けないというのはよくあることで、猛練習した後、他の曲など取り組んで少し放置していたら、急に難所が弾けるようになっていた、という現象があるからだ。
この現象には名前がついていたように思うが、思い出せない。ただ、練習量と、それが実際に現れるまでの間にはタイムラグがあることがほとんどで、練習してすぐ成果が現れるのは、初級〜中級入口くらいまでではないかと思う。だから、なぜこんなに懸命に練習しているのに出来ないのだろうと、苛々せず、少し悠長に構えてみる方が良いのではないか。
普段から練習量が多い人は、楽器を触らずに2、3日過ごしたら、逆に上手くなっていた、という現象が起こる場合がある。弦楽器奏者も同じことを話していたので、ピアノに限った話ではなく、楽器全般に言えることなのではないかと思う。さらに言うならば、スキル全般にも当てはまりそうである。
この現象はずっと謎だったが、こちらのウェブサイトに、大変参考になる記事が掲載されている。この記事によると、新しいスキルは練習中に上達する訳ではなく、休憩中に上達するのだという。休憩中、脳内では練習内容が超高速再生され、記憶の圧縮と統合が促進される。結果、休憩することによって技能が上達するのだという。記事によると、休憩中の高速再生が行われるのは脳の「感覚運動領域」、「海馬」、「嗅内皮質」の3カ所だそうだ。実験結果によると、短時間の休憩を挟む程に上達するという。
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/91085
練習中ではなく「頻繁な休憩」がスキルを上達させると判明 - ナゾロジー上達したいなら頻繁に休んだほうがいいかもしれません。 2021年にアメリカの国立衛生研究所(NINDS)の研究チーム nazology.net
この事実を踏まえると、やはり、ぶっ続けで練習しても上達の上限に早々にぶち当たると考えられる。単に集中力の問題だけでなく、休憩中に上達するという脳の特性を知ると、休憩をいかに上手く差し挟むかが、上達の鍵とも言えそうだ。今の時代、昔のように根性だけで楽器を習得しようとする人はあまりいないと思うが、科学的検証により、ぶっ続け練習が、いかに非効率なやり方であるか、納得がいく。技術習得に、休憩がどれほど重要な役割を果たしているかが分かった以上、これを利用しない手はない。
楽器も、出来るだけ速く上手くなりたいと思うもの。それには休憩が欠かせない。脳の特性を利用して、効率良く上達したいものだ。