電子ピアノか、アップライトピアノか 徹底比較
今回、電子ピアノ、ハイブリッドピアノ、アップライトピアノ、グランドピアノを、専門店で大量に試弾比較してきた。特に電子ピアノをここまで集中的に試弾したことはなかったので、かなり収穫があり、自分自身の感覚もアップデートされた。現在電子ピアノとアップライトどちらを買うべきか?といった検討をしている方々の参考になればと思い、書く。
訪問した時間は、連休中にもかかわらず他に来客がない貸切状態。事前に電話して、どうも今日は空いているらしいと分かったから、それを狙って行った。
試弾したのは、電子ピアノ十数台、ハイブリッドピアノ1台、アップライトピアノ中古新品合わせ大量に、グランドピアノ5台ほど。自分自身の購入ではなく、購入したい生徒のピアノの下見に行ったのだが、対応してくれた代表取締役の方が、そんなに楽しそうに試弾するならグランドも弾いていきな〜と別室の調整中のものも含め、ありとあらゆるものを触らせてくれた。
今回のメイン目的は、電子ピアノとアップライトの、実際弾いてみての反応や限界を徹底比較すること。どちらがどの部分で優れているか。どこが妥協されているか。スペックが高いからと言って、必ずしもそれが誰にとっても最良の楽器とは限らない。何を優先するかなのだ。音色なのか、ダイナミクスの幅なのか、レスポンスの速さなのか、耐久性や維持費なのか。だから例えば、アップライトと電子ピアノどちらが最適か、というのは一概に言えず、奏者が何を最も妥協したくないかだと思う。その辺りを体感的に、一度きっちり自分で比較したいと思っていた。
今回電子ピアノで主にチェックした項目は、まず鍵盤のレスポンスの速さ。一度押さえた鍵盤がいかに速く戻るかという点だ。同音連打、高速トリル、高速パッセージ、バッハ曲の同じ冒頭を弾いて、ひたすら反応を確認。2番目に、ダイナミクスのpp側への幅。弱音をいかに無理なく自然に出せるか。これはppからの連打、オクターブ、和音、シューベルトの即興曲の同じ部分をひたすら繰り返して確認。3番目に、音色をチェック。88鍵半音階で隈なく確認。特に低音部や高音部は妙に電子音っぽさが目立つことが多いので、その辺り。単音も和音も綺麗に出るか。ジャンル的な相性も見たいから、ジャズっぽいものも一節を弾く。
普段ほとんどグランドを弾いているため、自分の指は、その素早いレスポンスに適応してしまっており、反応が遅いピアノは本当に弾くのが大変だ。例えば同音連打は、アップライトで1秒間に7回、グランドの場合14回可能であるが、7回では、高速連打部分はほぼ何も弾けない。これは構造の違いに起因しており、グランドは完全に鍵盤を戻さなくても音が出る仕組みになっているからだ。最近の高価格帯電子ピアノは、鍵盤のレスポンスの速さにおいては、一般のアップライトを遥かに上回るので、それらをじっくりチェックしたかった。
そして比較のためにアップライトも大量に弾かせてもらい、こちらも同じチェック項目を同じ動作で繰り返した。そしてハイブリッドピアノなるもの、(アクションはアップライトと同じものが入っているが、実際弦を叩くことはなく、音は電子音が出るというもの)もたまたま置いてあったので同様にチェックを繰り返した。
この ①レスポンスの速さ②ダイナミクスの幅③全般的音色 という3つのポイントを、5点満点で勝手に評価して、様々なモデルを試し、書き留めていった。盲点だったのは、途中から自分の手の動きがそこにあるピアノに適応し始めて、楽器が良いのか、単に自分の扱いが上手くなったのかよくわからなくなってしまったことだ。そのため、最終的に2周半繰り返し、2時間ほど、客観的に判断が落ち着くまで弾かせてもらった。これだけ居座る客に、快く説明と時間を提供してくれて、本当に有難い。
で、結論はこんな感じ。
まず音そのものは、電子ピアノの音はあくまで電子音であり、どこまで真似ようと、生音と並ぶようなレベルには程遠い。ただこれは一概に悪いという訳でもなく、弾くジャンルによってはむしろ相性良く感じる場合もあるかと思う。つまり、どんな音で何を弾きたいかという部分が重要であって、そこが一致すれば不満はないのではないかと思う。
次に自分にとって最も要求が厳しい鍵盤のレスポンスの速さ。この点において、高価格帯の電子ピアノはかなり優秀だった。大体30万後半から40万台のものは、高速パッセージにも充分耐え、ストレスが少ない。一方アップライトでは、当然ながらレスポンスは全て遅すぎる。これは十分知っていることなので驚きはしないが、逆に電子ピアノの進化に驚いた。
なおアップライトの中でも、高速連打が出来るモデルが僅かに存在する。ただそれは特殊機能を備えているからであり、自分自身で以前試弾して確認したのは、SAUTERくらいだ。一般に多く販売されている国産ピアノには期待出来ない。
最後にダイナミクスの幅について。こちらも、電子ピアノは全般的に、思っていたより優秀だった。良い楽器というのは繊細な弱音を出す能力にあると思うのだが、高価格帯を中心に、かなり反応が良かった。ただし安価なものは、弱音になると急に音が嘘っぽくなるものもあり、やはり価格というのは機能と連動するのだなと感じた。
そうはいうものの、ダイナミクス全般に関して総合的に見ると、よく整備された理想状態にあるアップライトが、高価格帯の電子ピアノを上回るのは確実かと思う。それは単にレンジが広いということではなく、音の立ち上がり部分が圧倒的に違うからだ。物理的に力を加えて音を出すからこその、単なる強弱では括れない部分。その鋭さ、緊張感、音の広がりみたいなものが、どうやっても電子ピアノでは再現されなかった。
ただ注意点として、いくら性能の良いアップライトだろうと、調律を入れずほったらかしにされれば、せっかくの能力を維持出来ない。だからアコースティックピアノはきちんと面倒を見られる人が買うものである。間違いなく長期的に維持費と手間が発生する。そこを負担に感じる場合、アコースティックピアノは購入するべきではないと思う。何より、何の手入れもされず放っておかれるピアノが気の毒だ。
最後に中古と新品の違いも書いておく。新品は思いのほか手間がかかる。これは覚悟しておいた方が良い。まず楽器が鳴らないし、鍵盤も重い。そして調律も頻繁に入れる必要がある。自分の場合、購入後しばらくは3ヶ月おきに入れていた。一方中古は、環境に対してずっと馴染んでいる。それだけの歳月既に生きた保証があるピアノとも言える。大切にされ整備された楽器は、40年前に作られたものでも現役である。新品でも良いかもしれないと言い切れるのは、毎日3時間以上本気で弾き、そのための維持管理を惜しまないような人だけで、中古であるからこそ、すぐに素敵な音を、安定した状態で楽しめるというメリットもあるのだ。
そして今回初めて試弾したハイブリッドピアノなるものは、正直自分には利点がわからなかった。アクション部分はアップライト同様なので、レスポンスは遅い、音は電子音なので生音ではない。つまり不利な部分の組み合わせにしか思えない。どういう人がこれを求めるのか不明だが、需要があるからこそ出回るのだろう。
このように広範に弾き比べたことにより、体感的にそれぞれの特徴が手に残り、より的確なアドバイスが出来そうだ。例えば、テクニック面で、既に所有楽器が指の動きに対して追いつかないという場合。多分一般的なアップライトを購入しても、戻りが遅い鍵盤にストレスを感じるだけだ。レスポンスだけで言ったら、80万のアップライトより40万の電子ピアノの方が、身体の入力に対して反応してくれる。ただアコースティック楽器の全身で音を浴びる感覚に慣れてしまった後、電子音に耐えられるかというのは別問題。家にレスポンスの良い電子ピアノを置いて、グランドは時々借りるという選択肢もある。所有するだけで完結させなくても良いのだ。
そして初心者だから一番安価なモデルで充分ということもないだろう。楽器の反応が良くないと、弾くこと自体面白くなくなってしまうこともあるからだ。だからと言ってスペックだけで決めるのは本末転倒だと思う。弾きたいジャンルとか、目標とか、少し先の自分を予想しつつ、手に馴染むもの。つまり実際気が済むまで弾いて、自分にとって満足出来る楽器を選ぶことに尽きると思う。
私自身は、レスポンスの速さが最重要なので、調律やアクションを弄ってもらう際も、調律師さんにそう伝える。ただしこの優先事項のため犠牲にしている部分もあり、それが万人にとって最適とも限らない。例えば、ゆったりしたロマンチックな曲想を好む人にとっては、私の楽器は全然物足りないと思う。誰にとっても完璧な楽器というのは存在しない。自分にとって必要なものを見極めることだ。そして限られた予算の中で、どこを取り、どこを妥協するかだ。特に自分自身が絶対妥協出来ない点はどこかを知っておくのは、気持ちよく演奏するために不可欠だと思う。
今回、大量に試弾比較させてもらったことで、自分自身視野が広がり、大変有益な時間だった。そしてこれだけピアノの構造について意見を交換したり、説明をもらったり、突っ込んだ話をする機会は日常なかなかないので、非常に充実した時間でもあった。
参考までに、今回店頭にあった中で、
最も安い中古アップライトピアノ 14万くらい これは蓋に傷があるため
最も高い新品電子ピアノ 47万くらい
(どちらも店頭販売価格)