たった5gの力みが、1時間後にはどうなるか
ピアノを練習していると、もっと指の力をつけたいとか、もっと疲れず弾けるようになりたいとか、考えることがあるかもしれない。しかし実際には、上達や長時間の演奏を妨げる原因は、力が足りないことよりも、ほんの少しの余分な力が積み重なることが、影響しているように思う。
少し数字で考えてみる。
仮に演奏中の平均打鍵数を、1秒あたり両手合わせて5回としてみる。音が多い曲=上級者ではないが、これは初級者レベルとしての想定だ。すると
1分で300回
1時間で18,000回
鍵盤を押していることになる。
上級者であれば、更に打鍵回数の多い作品を弾くだろう。速いパッセージや和音連打の多い曲では、一時的にこれを大きく上回ることも珍しくない。1秒当たり20回以上打鍵するような部分も、ごく普通に存在する。
では、毎回の打鍵で必要な力に加えて、たった5gだけ余分な力を使っていたとしたらどうだろう。5gというと、ほとんど何も感じない重さだ。しかし18,000回繰り返すと、5g × 18,000回 = 90,000g つまり約90kgになる。
もし平均10打鍵/秒なら、1時間で36,000回。
この場合は約180kgだ。
もちろん実際に90kgや180kgの荷物を持ち上げているわけではない。そして人体もそんなに単純ではない。それでも、この計算は一つの重要な点を示す。たった少しだから問題ないと思える余分な力でも、何千回、何万回と繰り返されれば無視できない負担になるということだ。
面白いことに、疲労の原因は大きな力そのものではない場合がある。むしろ、指が少しだけ固まっている、手首に少しだけ不要な力が入っている、肩が少しだけ上がっている、ほんの少しの不要な力。そんな自分でも気づかない程度の緊張が、長時間の練習や演奏で大きな差を生む。
これはピアノに限った話ではない。ランニングでも、水泳でも、他のスポーツでも、長く続ける動作ほど、少しの無駄を減らすことが重要になるはずだ。1回では誤差のように見えるものが、何万回も積み重なるからだ。その動作を長年続けるなら、尚更だ。
だから上級者ほど、もっと力を入れる方法よりも、余分な力を減らす方法に関心を持つ。演奏が楽になるだけだからではない。疲労が減れば、音色や表現、音楽そのものに使える余裕も増えるからだ。そして身体的負担が減れば、長く楽しみ続けられる。
ピアノの練習で行き詰まったとき、もっと頑張らなければ、ではなく、どこかに5gの無駄はないだろうかと考えてみる。意外にも、その小さな発見が大きな変化につながることがある。
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