ハノンはどのくらい役に立つか
とりわけクラシックピアノで、頻繁に使われるテクニック教本に、「ハノン」がある。子どもから大人まで、ある程度のレベルを目指したい場合、必ずと言っていいほどやらされる。特に昔はやらされた。
ハノンは完全にテクニックに徹している教本で、無味乾燥、ひたすら機械的に指の動きを鍛錬するものである。前半はとりわけつまらなく、しつこく同じような音形ばかり繰り返す。後半は、スケール、アルペジオなど、もう少し実用性のある練習で構成されているが、面白くないことに変わりはない。ハノンを演奏会で弾くなんて場面にはお目にかかったことがないし、聴く方は、弾く方以上にうんざりするはずだ。
今回はこのハノンの有効性を分析してみる。(本家ハノン以外にも様々な、初級者向けハノンも存在するが、今回は本家ハノンに限って分析する)
まずハノンがどのくらいテクニック習得に役立つか、という部分である。個人的には、後半のスケール以降は、実際の楽曲を弾く際に役立つ部分が多いと思う。まず音階だが、あらゆる調性を自由に使いこなせるのは、クラシックのみならず、ポピュラーを弾く上でも非常に役立つ。Ⅰの和音、属7、減7など様々な和音をアルペジオで全調弾くことは、和声的理解にも大いに役立つ。終止形を全調で弾くことも同様だ。
また、後半(32〜38番)は指のくぐり方のパターンがいくつか出てくるが、これもテクニックとして相当役立つ。88鍵を10本の指で引く以上、演奏するジャンルを問わず、四六時中指をくぐったり跨いだりしながら、スムーズに音を繋げる技は、ピアノに必須だからである。また、半音階、3度の和音連続の練習など、頻出する様々な音形も網羅されており、それらの指のパターンを覚えておくと役立つ場面は多い。指のベーシックな使い方をマスターしておくことで、読譜や初見能力も向上する。
つまり、ハノンの後半は、テクニックそのものに加えて、理論が実践として定着するという点、音形を記憶し読譜を容易にさせるという点で、有効性がある。例え少しいい加減にやったとしても、テクニック以外のメリットも存在するということだ。(ただし、後半のトリル練習などはしつこい気がするので、そこまで必要ないように思う)
それに比べて、前半はテクニックオンリーである。しかもこの部分は、几帳面にやってこそ効果があるので、いい加減にやるくらいならやらない方が良い。メトロノームに合わせて、一糸乱れぬようなやり方できっちりやらないと、つまらなさに相応する効果は、そこまで期待出来ない。勢いで適当に弾いてしまうくらいなら、やらない方がよっぽどマシだと思う。
さらに、変に力の入った弾き方、無理な姿勢、適切でない指の形なので弾くと、妙な癖が色々とついて逆効果であるのみならず、手を痛める原因にもなる。
個人的には、ハノンをやりたい人には、まずスケールから始めることにしているが、これは優先順位を考えるとどうしてもそうなってしまうからである。一番役立つ部分を一番最初にやるのが、最も効率的だと感じるからである。スケールを全調で滞りなく弾けるだけで、ジャンルを問わず、一気に、楽にピアノを弾けるようになる。ドミファソラソファミをやっても、そうはいかない。
優先順位をつけるとしたら、
①39番 全調のスケール及び終止形
②40番 半音階
③41〜43番 全調+属7、減7アルペジオ
④32〜38番 指くぐりのパターン練習
⑤48〜53番 和音で音階
これらは、クラシックに限らず、テクニックとしても知識としても習得しておくと、後々楽々とピアノが弾けるようになるので、有効性が高い。そして途中で挫折したとしても、役立つものからやっておけば、身について残るものも多いはずだ。
ハノンの最終ページに、毎日全曲を弾く勧めがあるが、かなり無理があると思う。こんな機械的な練習を最大限の集中力を持って全部弾くのは現実的でなく、途中から適当になり、やっつけ仕事になるだけである。無味乾燥な音の羅列を聴き続けるのは、耳にも負担だ。ハノンを頑張り過ぎて、機械のようにしか弾けなくなってしまったら、本末転倒である。
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