指が思い通り動かない リズム練習の前に確認したいこと
ピアノテクニックを磨く上で、リズム練習というものがある。習っている人であれば、先生から何度もしつこく言われたかもしれない。ピンと来ない場合、全音の「全訳ピアノハノン教本」4、5ページを見てみてほしい。様々なリズムバリエーションの例が載っている。
リズム練習とは、元々の音型の、リズムやアーティキュレーションを変え、あえて複雑に弾きにくくし、テクニックを強化する、というような趣旨の練習を言う。具体的には、付点・逆付点を付けたり、3連符にしたり、またスタッカートやアクセントを付けたりするのも、広い意味でのリズム練習と言って良いと思う。
これらはハノンや練習曲のみならず、実際の楽曲の中で、速い連続パッセージがあるような場合、スムーズに弾けるようにするための有効なやり方とされ、練習法として幅広く認知されている。単にゆっくり繰り返し弾くのとは異なり、リズムを変えることによって、意識的に指の独立性を高め、粒を揃え、高いテクニック補強効果を得られるとされる。
しかしリズム練習が常に万能かというと、それは言い過ぎだと思う。リズム練習全般に懐疑的な訳ではないが、注意すべきは、闇雲にリズム練習するより先に、確認すべきことは多いという点だ。ピアノテクニックには、効率的に弾くための手順があるからだ。
1、
速いパッセージがうまくいかない場合、最初に見直すべきは運指の妥当性。これが不適切だと、どれほどリズム練習をしても徒労に終わる。良い運指は動作に無理がないだけでなく、フレーズの中で自然に手が呼吸出来る。一箇所に力が溜まりにくく、不自然な動作の停止がない。
2、
次に鍵盤の接触位置。指は鍵盤全体の、せいぜい3%くらいの面積としか接触しない。手前から奥まで、ミリ単位で調整出来る。この接触位置は、前後の音、和音、フレーズの中での役割、リズム、テンポなど、あるとあらゆる要素を考慮して、最もスムーズで自然な一点に定まる。この位置が適切でないと、何度繰り返しても弾きにくさは改善しない。だから微調整して、ハマる一点を探るのが大切だ。手はひとりひとり個体差があるので、必ずしも先生とそっくりの位置が最適という訳ではなく、最終的には自分で判断するしかない。
3、
そして動きの支点と連動。例えば幅広いアルペッジョであれば、前腕の回転動作で弾くのが自然であり、これを手首まで固めて指だけ動かしても限界がある。音型に対して使う動きが適切でないからだ。逆に隣音トリルなら、指だけを使い、手首まで使うと、速くも弾けないし疲れるだけだ。必要な分の動作を必要なだけ。プラスもマイナスもうまくいかない原因となる。
4、
最後に見逃されがちなのが呼吸。これは運指の話とも関連するが、手の動作呼吸という意味だ。例えば、速い無窮動的な動きがずっと続くような楽曲で考えてみる。ショパンのエチュードでも「幻想即興曲」でもシューベルトの「即興曲op.90」でも良いのだが、楽譜の見た目としては同じ音符がひたすら続く。しかし、必ず手が呼吸出来る音型になっている。ずっと張り詰めていないと弾けない訳ではなく、緊張と弛緩が繰り返されている。それは、これらの楽曲が、人間が演奏することを前提として作曲されているからだ。音型の中にある呼吸の波を掴むことが、楽に弾くコツなのだが、これは言葉で説明するのが本当に難しい。しかし軽視出来ない確認ポイントだ。個人的にはフレージングをかなり大袈裟にやってみて、動きの収束点を意識するのが、割と効果的なのでは、と思う。
こうして全て検証してもやはり指が動かないのが原因だと感じるなら、リズム練習の出番である。ただし注意点もある。リズムを変えることによって、本来の接触位置と大幅に違う部分で鍵盤を押したり、手が大袈裟な不要動作を吸収してしまうと、本末転倒になってしまう。目的は、本来のフレーズを美しく自然に弾くことであり、リズム練習が完璧に出来ることではない。
だからまず、リズム練習の前に自己観察することをお勧めする。指が動かないと思っていても、指の動きそのものが原因ではない場合が多い。中級者以上なら尚更だ。無条件でリズム練習を投入すると、他の問題を見過ごしてしまい、ずっと指が動かないという状態に閉じ込められることになりかねない。指は動くに越したことはないが、それはリズム練習で作るというより、様々な要素が最適化されての結果だ。
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